社会保険の育児休業等終了時改定について |
育児休業後の社会保険料額の見直し
<目 次>
- 育児休業等終了時改定とは
- 対象となる人・条件
- 改定のやり方・手続きの流れ
改定月と適用期間、手順、必要な書類と書き方など
1.育児休業等終了時改定とは
社会保険料の計算の基礎となる標準報酬月額は、原則として年に1回見直し(定時決定)が行われるほか、昇給や降給などで給与が大幅に変わった場合にも随時改定されます。
これ以外にも、育児休業等が終わって職場復帰した際に給与額が減った場合にも一定の要件を満たせば標準報酬月額の見直しが認められます。これを「育児休業等終了時改定」といいます。
育児休業後は、保育園の送迎などで勤務時間が短くなるなどして、育児休業開始前よりも給与額が減ることがあります。こうした場合、固定給の変更がないために随時改定による見直しも行えず、次の定時改定が行われるまでの間、実際の給与額に見合わない割高な社会保険料を支払い続けるようなケースが出てきます。こうしたケースの救済措置として育児休業等終了時改定が行えます。
◆将来の年金額が減らない「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」
収入が少ない時期に給与から天引きされる保険料額が減るのはありがたいですが、反面、厚生年金保険料の納付額も減ることで将来受け取る年金の額も減ってしまいます。つまり、育児によって年金が減るという不利益を被るわけです。
この場合、「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書」という書類を提出すれば、社会保険料が減額されても年金額は育児休業前の高い標準報酬月額で計算されます。これによって3歳未満の子を養育している期間も年金額が減らずにすみます。
この特例を受けるためには、育児休業等終了時改定の手続きが完了した後に別途手続きを行う必要があります。具体的なやり方・手順については後述します。
2.対象となる人・条件
以下の3つの要件を全て満たす被保険者が育児休業等終了時改定の対象となります。
- 満3歳未満の子を養育するために育児休業等を取得し、その終了時に3歳未満の子を養育している
- 改定前と改定後の標準報酬月額に1等級以上の差が生じる
- 改定後3ヶ月のうち、少なくとも1ヶ月の支払基礎日数が17日以上
要件2.標準報酬月額の等級差について
改定後の標準報酬月額は、育児休業終了日の翌日の属する月以後3ヶ月分の報酬の平均額に基いて算出します。
例えば育児休業前の標準報酬月額が200,000円(17等級)で、8月31日に育児休業が終了したとします。終了日の翌日は9月1日です。よって9月、10月、11月の報酬の平均を計算します。
9月報酬:160,000円、10月報酬:170,000円、11月報酬:165,000円だった場合、育児休業後3ヶ月間の報酬の平均額は、(160000 + 170000 + 165000)/3 = 165,000円となります。この平均額を「標準報酬」として最新の保険料額表に当てはめて、休業後の標準報酬月額と等級を確認します。等級が16等級以下であれば「要件2」を満たすこととなります。
※注意!!
計算対象の3ヶ月のうちに、「要件3」の"支払基礎日数17日以上"という条件を満たさない月がある場合は、その月を除いて平均額を計算します。パートタイマーなどの短時間労働者の場合は15日未満の月を計算から除きます。
報酬の定義
ここでいう報酬(給与)とは、労働基準法上の「賃金」とは定義が異なり、労働を提供した対価として受け取る物すべてが対象です。基本給のほか各種手当や現物支給される物も含みます。
詳細は「報酬月額の求め方」を参照してください。
要件3.支払基礎日数について
育児休業終了日の翌日が属する月以後3ヶ月のうち、少なくとも1ヶ月の支払基礎日数が17日以上である必要があります。
※特定適用事業所に勤務する短時間労働者の場合は11日以上。
例えば8月31日に育児休業が終了した場合、終了日の翌日は9月1日です。よって9月、10月、11月の支払基礎日数を数え、17日以上の月が一つでもあれば「要件3」を満たすこととなります。
支払基礎日数とはおおまかに言えば月々の勤務日数です。ただし完全月給制なら休日も日数に含むなど、勤務形態によって数え方に違いがあります。詳しくは「定時決定 - 支払基礎日数」を参照してください。
3.改定のやり方・手続きの流れ
3-1.改定月と適用期間
改定の手続きを行うには、育児休業後3ヶ月間の報酬の平均値や支払基礎日数を計算する必要があるため、早ければ3ヶ月目の報酬額と支払基礎日数が確定した時点で手続きが可能となります。
確定後、速やかに手続を行えば、翌月つまり4ヶ月目から新しい標準報酬月額が適用となります。適用期間は次に標準報酬月額の見直しが行われるまでの間です。再び随時改定などの手続きを行わない限り、通常なら定時決定による見直しが適用となる8月まで適用されます。
(例1)6月14日に育児休業が終了した場合
終了翌日の6月15日が属する月以後3ヶ月、つまり6、7、8月の報酬と支払基礎日数を算出して要件を満たすか確認する。速やかに手続を行えば、翌月9月から新しい標準報酬月額が適用となる(10月の給与から新しい社会保険料額が天引きされる)。適用期間は翌年8月までの11ヶ月間。
(例2)1月31日に育児休業が終了した場合
終了翌日の2月1日が属する月以後3ヶ月、つまり2、3、4月の報酬と支払基礎日数を算出して要件を満たすか確認する。速やかに手続を行えば、翌月5月から新しい標準報酬月額が適用となる(6月の給与から新しい社会保険料額が天引きされる)。適用期間は同年8月までの4ヶ月間。
3-2.手続きの流れ
「育児休業等終了時改定」に必要な書類の作成から提出までの一連の手続きは、被保険者本人ではなく会社が行います。
手順1
育児休業後3ヶ月目の報酬額と支払基礎日数が確定したら、改定に必要な3つの要件を全て満たしているか確認します。
手順2
要件を満たしていれば、「健康保険・厚生年金保険育児休業等終了時報酬月額変更届」を作成します。
対象となる3ヶ月の各月の報酬額、支払基礎日数、報酬合計、報酬平均を記入します。
変更届はあらかじめ年金事務所か健康保険組合に取りに行く必要があります。日本年金機構のホームページからダウンロードすることもできます。
【リンク】:手続内容と書類のダウンロード
<変更届の記入例と注意点>
- 記入例を開く(PDFファイル)
- 改定は被保険者の申し出によって行うことになっているため、変更届には事業主と申出人の両方の著名欄があります。
- 報酬の平均額を計算する場合、支払基礎日数が17日未満(パートなどの短時間労働者は15日未満)の月は計算対象から除きます。
手順3
変更届を管轄の年金事務所または健康保険組合に郵送または窓口持参で提出します。
手順4
書類の審査後、申請内容に不備がなければ、決定された標準報酬月額を通知する「健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知書」が届きます。
新たな標準報酬月額を最新の保険料額表にあてはめて、新たな社会保険料額(健康保険料額と厚生年金保険料額)を確定します。
【参考】:保険料額表を使って社会保険料を調べる
手順5
育児休業等終了時改定が無事終了すれば、前述した「将来もらえる年金額が減らないようにする救済措置」を受けるための手続きもできるようになります。
被保険者にとって利点しかない制度ですので、是非こちらの手続きも行いましょう。
提出する書類が違うだけで、作成者や提出先など手続きの流れは育児休業等終了時改定のケースと同様です。
<必要書類>
- 厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例終了届
【リンク】:解説と書類のダウンロード(日本年金機構) - 戸籍謄(抄)本または戸籍記載事項証明書
※申出者と子の身分関係および子の生年月日を証明できるもの - 住民票の原本
※個人番号の記載がなく、申出者と子が同居していることを確認できるもの
※提出日から遡って90日以内に発行されたもの
※養育特例の要件に該当した日に同居が確認できるもの
(例):育児休業終了の場合は、育児休業終了年月日の翌日の属する月の初日以後に発行された住民票が必要になります。
<記入例>