労災保険による給付の種類・内容 |
労災保険給付について
労災保険は業務中や通勤中の災害による病気、ケガ、障害、死亡などに対して保障を行う制度です。
具体的にどういった状態になった場合に、どういった給付が受けられるのか解説します。
<目 次>
【関連項目】
◆主な保険給付
給付が受けられるケース(概要) | 保険給付の種類 |
---|---|
ケガや病気で治療を受けた | 療養(補償)給付 |
療養のため休業する | 休業(補償)給付 |
療養を開始後1年6ヶ月で治癒せず、傷病等級に該当する | 傷病(補償)年金 |
障害が残った | 障害(補償)給付 |
常時または随時介護が必要となった | 介護(補償)給付 |
死亡した | 遺族(補償)給付、葬祭料(葬祭給付) |
脳・心臓に異常がある | 二次健康診断等給付 |
※業務上災害による給付を「〜補償給付」といい、通勤災害による給付を「〜給付」という。
特別支給金について
一部の労災保険給付においては、通常の給付に更に別の給付が上乗せされる場合があります。これを特別支給金といいます。全ての受給者に一律で給付されるものもあれば、特定の条件を満たした場合にのみ給付されるものもあります。
1.ケガ・病気で治療した時の「療養(補償)給付」
1-1.こんな場合に給付を受けられる
業務災害または通勤災害によるケガや病気によって治療を受ける(療養する)時
1-2.給付内容
労災病院や、労災保険で指定される医療機関・薬局等にかかる場合は、無料で治療や薬剤の支給等を受けられます(現物給付)。
指定医療機関等以外にかかった場合は、その療養にかかった費用が全額支給されます(現金給付)。
療養給付は、治療費、入院費、移送費など、通常療養のために必要なものが含まれ、傷病が治癒するまで支給されます。
2.療養のため休業した時の「休業(補償)給付」
2-1.こんな場合に給付を受けられる
業務災害または通勤災害によるケガや病気の治療のため働くことができず、賃金を受けられない時
2-2.給付内容
休業4日目から休業(補償)給付と休業特別支給金が支給されます。
支給額
- 休業(補償)給付 = 給付基礎日額の60% × 休業日数
- 休業特別支給金 = 給付基礎日額の20% × 休業日数
「給付基礎日額」とは労働基準法の平均賃金のことです。傷病が発生した日の直前3ヶ月間の1日あたりの賃金額です(※「賃金」は各種手当を含みますが、ボーナスや一時金の類は含まれません)。
休業特別支給金は全ての受給者に一律で支給されるため、支給額の合計は給付基礎日額の80%になります。
なお、休業初日〜3日目の期間(待期期間)は、業務災害の場合であれば事業主が労働基準法の規定に基づく休業補償(1日につき平均賃金の60%)を行います。
3.療養を続けても治癒しない時の「傷病(補償)年金」
3-1.こんな場合に給付を受けられる
業務災害または通勤災害によるケガや病気の療養を開始し、1年6ヶ月が経過した後も以下の状態にある場合
- ケガ・病気が治っていない
- ケガ・病気による障害の程度が以下の傷病等級のいずれかに該当する
傷病等級
<第1級>
- 神経系統の機能または精神に著しい障害を有し、常に介護を要する
- 胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、常に介護を有する
- 両眼が失明している
- そしゃく及び言語の機能を廃している
- 両上肢の用を全廃している、またはひじ関節以上で失っている
- 両下肢の用を全廃している、またはひざ関節以上で失っている
- 1〜6と同程度以上の障害の状態にある
<第2級>
- 神経系統の機能または精神に著しい障害を有し、随時介護を要する
- 胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、随時介護を有する
- 両眼の視力が0.02以下
- 両上肢を腕関節以上で失っている、または両下肢を足関節以上で失っている
- 1〜5と同程度以上の障害の状態にある
<第3級>
- 神経系統の機能または精神に著しい障害を有し、常に労務に服することができない
- 胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、常に労務に服することができない
- 一眼が失明し、他眼の視力が0.06以下
- そしゃく又は言語の機能を廃している
- 両手の手指の全部を失っている
- 3〜5と同程度以上の障害の状態にあり、常に労務に服することができない
3-2.給付内容
傷病等級に応じた給付が受けられます。
傷病等級 | 傷病(補償)年金 | 傷病特別支給金(一時金) | 傷病特別年金 |
---|---|---|---|
第1級 | 給付基礎日額の313日分 | 114万円 | 算定基礎日額の313日分 |
第2級 | 〃 277日分 | 107万円 | 〃 277日分 |
第3級 | 〃 245日分 | 100万円 | 〃 245日分 |
「算定基礎日額」とは、傷病が発生した日の直前1年間に支払われた特別給与の合計を365で割った額です。
特別給与とは、給付基礎日額の対象からは外れる"賞与(ボーナス)"などの3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金のことです。臨時に支払われる賃金は含みません。
特別給与の合計は、給付基礎年額(給付基礎日額×365)の20%が上限です。また、その金額が150万円を超える場合は150万円が上限となります。
※傷病(補償)年金が支給される場合、療養(補償)給付も同時に受給できますが、休業(補償)給付は受給できません。
4.障害が残った時の「障害(補償)給付」
4-1.こんな場合に給付を受けられる
業務災害または通勤災害によるケガや病気が治った時に、身体に一定の障害(障害等級1級〜14級)が残った場合です。
具体的にどういった身体障害が該当するのかは、以下の資料を参照してください。
4-2.給付内容
障害の程度に応じて給付金の種類と給付金額が変わります。
障害等級 | 障害(補償)給付 | 障害特別支給金 (一時金) | 障害特別年金・障害特別一時金 |
---|---|---|---|
第1級 | 給付基礎日額の313日分 (年金) | 342万円 | 算定基礎日額の313日分 (年金) |
第2級 | 〃 277日分 | 320万円 | 〃 277日分 |
第3級 | 〃 245日分 | 300万円 | 〃 245日分 |
第4級 | 〃 213日分 | 264万円 | 〃 213日分 |
第5級 | 〃 184日分 | 225万円 | 〃 184日分 |
第6級 | 〃 156日分 | 192万円 | 〃 156日分 |
第7級 | 〃 131日分 | 159万円 | 〃 131日分 |
第8級 | 給付基礎日額の503日分 (一時金) | 65万円 | 算定基礎日額の503日分 (一時金) |
第9級 | 〃 391日分 | 50万円 | 〃 391日分 |
第10級 | 〃 302日分 | 39万円 | 〃 302日分 |
第11級 | 〃 223日分 | 29万円 | 〃 223日分 |
第12級 | 〃 156日分 | 20万円 | 〃 156日分 |
第13級 | 〃 101日分 | 14万円 | 〃 101日分 |
第14級 | 〃 56日分 | 8万円 | 〃 56日分 |
※障害特別支給金については、 傷病特別支給金も受給している場合は、その差額になります。
「前払一時金」と「差額一時金」について
障害年金の受給者は、1回に限り、年金を一時金として前払いで受けることができます。
また、障害年金の受給権者が死亡した場合、受給可能額に残額がある場合には、遺族に対して障害年金差額一時金が支給されます。
それぞれの詳細は以下の資料を参照してください。
5.介護が必要になった時の「介護(補償)給付」
5-1.こんな場合に給付を受けられる
傷病年金または障害年金の受給者のうち、傷病等級・障害等級が第1級の方、または第2級の「精神神経・胸腹部臓器の障害」を有している方が、現在介護を受けている場合に給付を受けられます。
具体的には以下の要件を全て満たす人が給付対象となります。
- 常時介護または随時介護を要する一定の障害の状態にある
<常時介護が必要な障害の状態> - 精神神経・胸腹部臓器に障害がある(障害等級第1級3・4号、傷病等級第1級1・2号)
- 上記と同程度の介護を要する状態にある(「両眼を失明するとともに、障害または傷病等等級第1〜2級の障害がある」、「両上肢と両下肢が亡失または用廃の状態にある」など)
- 精神神経・胸腹部臓器に障害がある(障害等級第2級2号の2〜3、傷病等級第2級1・2号)
- 障害等級第1級または傷病等級第1級だが、常時介護を要するほどの状態ではない
- 実際に介護を受けている
民間の介護サービスでも、親族や知人による介護でもかまいません。 - 病院や診療所に入院していない
- 介護老人保健施設、障害者支援施設(生活保護受給者に限る)、特別老後老人ホームに入所していない
5-2.給付内容
※表示されている金額は平成28年4月1日現在のものです。
ケース | 給付内容 |
---|---|
親族や友人・知人の介護を受けていない | 介護の費用として支出した金額 ※上限あり。常時介護の場合は 104,950円、随時介護の場合は 52,480円 |
親族や友人・知人の介護を受けている | 介護の費用として支出した金額 ※上限あり。常時介護の場合は 104,950円、随時介護の場合は 52,480円。 ※下限あり。常時介護の場合は、支出金額が57,030円未満なら一律57,030円を支給。随時介護の場合は、支出金額が28,520円未満なら一律28,520円を支給。 |
6.死亡した時の「遺族(補償)給付・葬祭給付」
6-1.こんな場合に給付を受けられる
1.遺族(補償)年金
- 被災労働者が死亡した場合
<受給資格者と受給権者>
被災労働者が死亡した当時、その収入によって生計を維持されていた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹が受給資格者となり、そのうち最先順位者に対して支給されます。
※配偶者以外は一定の高齢または年少または障害の状態にある者が対象です。
詳しい順位や年齢等の条件についてはこちらを参照してください。
2.遺族(補償)一時金
- 被災労働者が死亡した当時、遺族(補償)年金を受ける遺族がいない場合
<受給資格者と受給権者>
以下1〜4の遺族のうち最先順位者に支給されます。(数字が小さいほど順位が高い)
- 配偶者
- 死亡時に、その収入によって生計を維持されていた子・父母・孫・祖父母(※順位もこの順番)
- その他の子・父母・孫・祖父母
- 兄弟姉妹
3.葬祭料(葬祭給付)
- 被災労働者が死亡した場合
<受給権者>
葬祭を執り行う者。通常は遺族。社葬として会社が葬祭を行った場合は会社に対して支給される
6-2.給付内容
1.遺族(補償)年金
遺族数などに応じて給付内容が変わります。なお、受給権者が2人以上の時は、人数で等分した金額が各受給権者に支給されます。
遺族数 | 遺族(補償)年金 | 遺族特別支給金 (一時金) | 遺族特別年金 |
---|---|---|---|
1人 | 給付基礎日額の153日分 ※遺族が55歳以上の妻または一定の障害をもつ妻の場合は175日分 | 300万円 | 算定基礎日額の153日分 ※遺族が55歳以上の妻または一定の障害をもつ妻の場合は175日分 |
2人 | 給付基礎日額の201日分 | 算定基礎日額の201日分 | |
3人 | 〃 223日分 | 〃 223日分 | |
4人以上 | 〃 245日分 | 〃 245日分 |
2.遺族(補償)一時金
遺族(補償)年金 | 遺族特別支給金 (一時金) | 遺族特別年金 |
---|---|---|
給付基礎日額の1000日分 | 300万円 | 算定基礎日額の1000日分 |
3.葬祭料(葬祭給付)
315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた金額が支給されます。この額が給付基礎日額の60日分未満の場合は、60日分が支給額となります。
なお、葬祭料は被災労働者の死亡日の翌日から2年を経過すると、時効により請求権が消滅します。
7.脳・心臓に異常の初見がある時の「二次健康診断等給付」
7-1.こんな場合に給付を受けられる
以下の要件を全て満たす人が給付対象となります。
- 一次健康診断の結果、異常の所見が認められること
直近の定期健康診断(一次健康診断)の結果、次の全ての検査項目について、「異常の初見」があると診断された場合です。 - 血圧検査
- 血中脂質検査
- 血糖検査
- 腹囲の検査またはBMI(肥満度)の測定
- 脳・心臓疾患の症状がないこと
一次健康診断やその他の機会で、「異常の所見」ではなく、「脳・心臓疾患の症状がある」と、医師に診断された場合は給付は受けられません。 - 労災保険の特別加入者でないこと
なお、一次健康診断でこれらの項目に異常なしと診断された場合でも、労働安全衛生法に基づき事業場に専任されている産業医等が異常の初見を認めた場合には、産業医等の意見を優先します。
7-2.給付内容
労災病院または都道府県労働局長が指定する病院・診療所で、二次健康診断および特定保健指導を無料で受診できます。
なお、二次健康診断の結果、脳・心臓疾患の症状を有していると診断された場合は、特定保健指導は実施されません。