短時間労働者の社会保険の加入条件 |
社会保険の適用拡大
アルバイト、パートタイマー、日雇い労働者など、正社員ではない労働者が社会保険(健康保険と厚生年金)に加入する場合、「一定以上の雇用契約期間があり、更に1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が一般社員の4分の3以上」という条件を満たさなければならず、正社員に近い労働時間が必要でした(参考:社会保険の加入条件)。
ところが、平成28年10月1日から、従来の加入条件を満たさない短時間労働者についても、新たに定められた特定の条件を満たす場合に限り、社会保険に加入できることとなりました。
◆短時間労働者の加入条件
以下の6つの条件を全て満たす必要があります。
<概要>
- 働いている会社・法人の従業員数が501人以上
- 1年以上雇用される見込みである
- 1週間の勤務時間が20時間以上
※残業時間は含まない - 賃金が月額88,000円以上(年収106万円以上)
※残業代、通勤手当、賞与などは含まない - 学生ではない
- 70〜75歳未満である
各項目について詳しく解説していきます。
条件1.
「勤め先の会社の従業員数が501人以上」
正社員やパートの区別なく、既に社会保険が適用となっている従業員数の合計が501人以上である必要があります。よって、ある程度規模の大きい会社で働く人が対象となります。
とはいえ、一つの施設だけで501人以上というわけではなく、複数の支店や営業所がある会社なら、通常それら全ての従業員の合計で501人以上であれば良いということになります。
短時間労働者の社会保険が適用となる事業所については以下のように定義されています。
同一事業主の適用事業所(※1)の、厚生年金保険の被保険者数(※2)の合計が、1年で6ヶ月以上、500人を超えることが見込まれる場合は、特定適用事業所として短時間労働者の適用拡大の対象となります。
(※1)同一事業主の適用事業所について
<法人事業所や地方公共団体の場合>
法人番号が同じ適用事業所を指します。
例えば、「株式会社ABC商事」に、本社のほか、○○支店や、△△営業所などがある場合、通常は法人番号は全て同じです。
<個人事業所の場合>
現在の適用事業所を指します。
※個人事業所(個人事業主)とは、○○会社や△△法人といった法人格を持たずに、個人または共同で事業を営む事業所のことです。個人経営のお店や自営業者などです。
(※2)厚生年金保険の被保険者数について
従来の被保険者が対象です。今回新たに保険の適用対象となる短時間労働者は含みません。
ABC株式会社 本社
- 法人番号:123456
- 被保険者数:300人
ABC株式会社 ○○支店
- 法人番号:123456
- 被保険者数:220人
この場合、本社と支店は法人番号が同じであり、被保険者の合計が500人を超えるため、本社と支店の両方が条件を満たすことになります。
条件2.
「雇用期間が1年以上の見込み」
この条件を満たすのは以下のようなケースです。
- 雇用期間が特に定められていない
- 雇用期間が定められており、その期間が1年以上である
- 雇用期間が定められており、その期間が1年未満であるが、次のいずれかに該当する
- 雇用契約書に契約が更新される旨または更新される可能性がある旨が明示されている
- 以前にも同じ雇用契約で1年未満の雇用期間で働き、更新等によって1年以上雇用された実績がある
被保険者の資格が得られる時期について
1年以上雇用されることが見込まれることとなった時点(契約締結日等)から被保険者となります。
ただし、雇用期間は法施行日(平成28年10月1日)から起算するため、1年以上の雇用契約であっても、平成28年10月1日〜雇用契約満了日までの期間が1年に満たない場合は適用となりません。
例1.「H28.10.10に1年の雇用契約を結んだ」
- H28.10.10から被保険者となる
例2.「H27.11.1に2年の雇用契約を結んだ」
- 法施行日H28.10.1から契約満了日H29.10.30までの雇用期間が1年以上であるため条件を満たす
- H28.10.1から被保険者となる
例3.「H28.4.1に1年の雇用契約を結んだ」
- 法施行日H28.10.1から契約満了日H29.3.31までの雇用期間が1年未満であるため被保険者とはならない
例4.「H28.4.1に1年の雇用契約を結び、H29.4.1に1年間の契約更新をした」
- 法施行日H28.10.1時点では条件を満たさないが、H29.4.1に条件を満たしたため、H29.4.1から被保険者となる
条件3.
「1週間の勤務時間が20時間以上」
ここでいう勤務時間とは、「所定労働時間」のことです。就業規則、雇用契約書等により、通常の週に勤務すべき時間をいいます。残業時間は含みません(雇用保険の取扱いと同じです)。
所定労働時間が週単位で定まっていない場合の算定方法
- 1ヶ月単位で定められている場合
→ 「1ヶ月の所定労働時間 × 12 ÷ 52」 で算出します。
※1年間の月数を「12」、1週間の週数を「52」として換算するものです。
※特定の月の所定労働時間に例外的に長短がある場合は、特定の月を除いて計算します。 - 1年単位で定められている場合
→ 「1年の所定労働時間 ÷ 52」 で算出します。
※1週間の週数を「52」として換算するものです。 - 1週間の所定労働時間が短期的かつ周期的に変動する場合
→ 平均値を算出します。
条件4.
「賃金が月額88,000円以上(年収106万円以上)」
ここでいう「賃金」とは、基本給に一部手当を含めた金額です。
ただし、以下の各種手当は除きます。
<除外対象>
- 臨時に支払われる賃金および1月を超える期間ごとに支払われる賃金
→ 賞与(ボーナス)、結婚手当など - 時間外労働、休日労働、深夜労働に大して支払われる賃金
→ いわゆる残業代や時間外手当など - 最低賃金法で参入しないことをさだめる賃金
→ 通勤手当、皆勤手当、家族手当など
また、時間給、日給、週給制の場合は、月額に換算します。
例えば、時給1,000円、1日5時間、毎月月曜〜金曜勤務という雇用契約の場合、
- 1000 × 5時間 × 22日(※1) =110,000円
となり、見込額が88,000円を超えるため条件を満たします。
(※1)
ここでは月平均勤務日数を22日として計算しています。1ヶ月の見込み額の算出方法に明確な決まりはないため、従業員や行政から質問された場合に問題にならないよう、会社がそれぞれ妥当と思われる算出法で計算します。
賃金のバラツキについて
月給制で月額が88,000円を超えてたり、時給や日給制であっても、勤務時間や勤務する曜日が年間を通して一定で、毎月88,000円を超えるのが確実な雇用契約であれば問題ありません。
しかし、1ヶ月の賃金が88,000円のボーダーラインに近く、祝日や欠勤日数によっては88,000円を割ったり、逆に大きく上回る月があったりと、毎月の賃金にバラツキがあるケースはどうでしょうか。
「毎月88,000円を必ず上回らなければならず、ひと月でも割り込めば適用対象外」といった厳密なルールにはなっていません。雇用契約で定められている勤務日数や勤務曜日が年間をとおして一定で、賃金平均が88,000円以上となる予定であればほぼ問題ありません。こうした場合は年収で106万円(8.8万×12ヶ月)を上回るかどうかも重要です。上回っていれば心配はいらないでしょう。
逆に年収は106万円を上回っても、ある月は労働時間や日数が多くて月額も大きいが、ほとんど勤務がない月もあるなど、季節労働者のように毎月の賃金額に大きなバラツキが生じるような雇用契約になっているケースでは適用対象外となる可能性が高いです。
条件5.
「学生ではない」
高等学校、大学、専修学校、各種学校(※)等の生徒または学生は適用対象外となります。
※「各種学校」は修業年限が1年以上の課程に限る
ただし、以下のような方々は適用対象となります。
- 卒業前に就職し、卒業後も同じ事業所に勤務する予定で、卒業見込証明書を保持している
- 高等学校の夜間等の定時制の課程の生徒
- 大学の夜間学部の学生
- 休学中の方
条件6.
「70〜75歳未満である」
社会保険はもともと加入できる年齢に制限があります。
厚生年金保険
70歳以上の方は加入できません。ただし、年金の受給資格期間が足りない人に限り、70歳以上でも年金の受給権獲得までの期間は任意で厚生年金に入ることができます。
※ちなみに「国民年金」の場合は加入義務があるのは59歳までで、60〜65歳までは任意加入でき、受給資格期間が足りない人に限り70歳まで任意加入できます。
健康保険
75歳以上の方は加入できません。国民健康保険も同様です。75歳になると新たに「後期高齢者医療制度」に加入することになります。