雇用保険の高年齢雇用継続給付 1.「高年齢雇用継続基本給付金」 |
<目 次>
雇用保険には、労働者が新たに雇用されたり、今後も継続して働き続けられるよう支援する雇用促進給付があります。
その一つが、60歳以上の高齢者の雇用促進を目的とする「高年齢雇用継続給付」です。
高年齢雇用継続給付には2種類あります。
一つは60歳近くまで長期間働き、基本手当等を受給せずに60歳以降も働いている者を対象とした「高年齢雇用継続基本給付金」です。もう一つは基本手当(失業手当)を受給した後、60歳以降に再就職した者を対象とした「高年齢再就職給付金」です。
どちらも60歳以降の賃金が以前よりも低下した者に給付金が支給される制度です。給付を受けるためには定められた基準以上に賃金が低下しており、かつ、雇用保険に加入していた(被保険者だった)期間もある程度長くなければなりません。詳しい受給条件については後述します。
ここでは「高年齢雇用継続基本給付金」について解説しています。「高年齢再就職給付金」については別項を参照してください。
高年齢雇用継続基本給付金の支給を受けるには、以下の要件を全て満たす必要があります。
それぞれの要件について詳しく解説します。
基本手当等を受給せずに、60歳以降も働いていなければなりません。また、勤務先では雇用保険に加入していなければなりません。勤務時間や日数が少ない非正規雇用で雇用保険に加入していなかったり、一般被保険者ではない場合などは対象外となります。雇用保険については2-3で解説しています。
<ケース1>
60歳になるまで会社で働き、60歳以降も引き続き働くケースです。
現在、民間の会社では60歳定年が主流ですが、60歳以後も同じ職場で再雇用される例も多いです。
<ケース2>
60歳で一度退職し、その後、基本手当(失業手当)等の給付を受けずに別の会社に再就職するケースです。
退職後に基本手当、または基本手当を支給したとみなされる各種給付(※)を受けた者は、高年齢雇用継続基本給付金は受けられませんが、代わりに「高年齢再就職給付金」の対象となります。
※各種給付に含まれるのは基本手当以外の求職者給付と、再就職手当などの就業促進手当です。
まず、原則として60歳以降は雇用保険の「一般被保険者」として雇用されていなければなりません。
高年齢雇用継続給付は60歳以後に”安定した職業”に就いている者を対象とします。安定した職業かどうかは雇用保険の一般被保険者であるかどうかで判断されます。一般被保険者に該当するのは雇用期間の定めのない65歳未満の一般社員や、雇用期間と労働時間が一定水準を超える派遣社員やパートなどの非正規労働者です。
加入期間が合計で5年以上必要です。加入期間については被保険者の種類は問いません(一般被保険者以外でも大丈夫です)。
失業や転職などで複数の会社で働いていた場合、通常、その合間に雇用保険に加入していなかった時期が生じます。その空白の期間が1年未満で、かつ、その期間に基本手当などの求職者給付や就業促進手当を受給していなければ、それぞれの勤務先における加入期間を合算できます。未加入期間が1年以上であったり各種給付を受けていた場合は、再び被保険者になった日から改めて起算します。
<ケース1>
「60歳以降も雇用保険の一般被保険者として働き続けており、60歳時点での雇用保険の加入期間が5年以上」
↓
60歳の時点で条件を満たす
<ケース2>
「60歳以降も雇用保険の一般被保険者として働き続けており、60歳時点での雇用保険の加入期間が4年6ヶ月である」
↓
60歳と6ヶ月の時点で加入期間が5年以上となるため、条件を満たすのは60歳と6ヶ月になった時
<ケース3>
「59歳と8ヶ月の時点で失業し、この時点での雇用保険の加入期間は5年以上だった。その後、60歳と5ヶ月の時に再就職して雇用保険の一般被保険者となった」
↓
再就職した60歳と5ヶ月の時点で条件を満たす
※この場合、失業して被保険者でなくなった期間が1年未満であるため、失業前の加入期間も合算できる。もし期間が1年以上であったり、またはその間に基本手当等を受給していた場合は、失業前の加入期間は合算できず、再就職した後に改めて5年以上の加入期間を経る必要がある。
原則として、「60歳到達時以降の1か月の賃金が、60歳到達時の賃金月額の75%未満」であることが条件です。
60歳になるまでに雇用保険の加入期間が5年以上という条件を満たしている場合は、言葉どおり「実際に60歳になった日」を指します。
しかし、60歳の時点で5年に満たない場合は、その後に加入期間が5年に達した日を60歳到達時とみなします。
また、ここで言う「賃金」とは税金や雇用保険料などが控除される前の総支給額です。各種手当も含まれますが、
賞与や退職金などの一時金は含まれません(賃金一覧表)。社会保険の計算における「報酬」とは賞与の定義などに若干の違いがあります。
60歳到達時の賃金月額とは、60歳到達時の月給のことではありません。60歳到達時の直前6ヶ月の平均賃金のことです。
6か月間(180日)の賃金合計を180日で割って算出した1日あたりの賃金「賃金日額」を30倍した金額です。
賃金月額は自分で計算するわけではありません。
給付金の申請手続きの前に、ハローワークに必要書類を提出して「受給資格の確認」を行うのですが、その際に賃金月額が決定・登録されます。手続き後にハローワークから送付される「受給資格確認通知書」に記載されています。
※支払基礎日数が11日未満の月については、賃金月額の計算対象から除外されます。
※賃金月額には上限と下限があります。上限額は476,700円で、下限額は75,000円です(令和2年7月31日まで)。上限・下限額は毎年8月1日に改定されます。
高年齢雇用継続基本給付金の受給条件については、厚生労働省による案内も参考にしてください。
支給を受けることができる期間は、60歳になった月から65歳になる月までです。
ただし、各月の1日から末日まで雇用保険の一般被保険者でなくてはなりません。1日でも被保険者ではない日がある月については支給対象外となります。
給付金は一度支給条件を満たせばその後もずっと支給されるというものではありません。
給付の申請と承認の作業は定期的に行われます。ある月が給付条件を満たしていれば申請を行い、無事承認されるとその月の分の給付金が支給されます。今後もずっと賃金が低い状態が続く見込みだととしても、給付を受け続けるためには、原則として2ヶ月ごとに申請手続きを行い承認を受ける必要があります。
まず、以下の計算式によって各月の賃金の低下率を計算します。
支給額の計算の仕方は、賃金の低下率によって変わります。
<低下率が61%以下の場合>
<61%より大きく75%未満の場合>
賃金が大きく下がるほど支給額は大きくなります。
現在の賃金が以前の賃金月額の61%以下なら、現在の賃金の15%にあたる金額が支給されます。この15%が最も大きな支給率です。低下率が61%から75%へと大きくなるほど、逆に支給率は下がっていきます。低下率が74%位だと、支給率は1%程度です。
支給対象月に賃金が低下した理由が以下のようなものである場合、雇用保険による給付がなされるのは適切でない、または他の社会保険により保障がなされるのが適切と判断されることがあります。そうした場合、低下した分は実際には支払われたものとした上で低下率を計算します。
支給額の計算例などについては、厚生労働省による案内を参照してください。
給付金の支給を受けるためには、はじめに受給資格を確認する手続きを行い、資格を得た後に給付の支給申請の手続きをするという流れになります。
この2つの手続きは同時に行うことができるため、ここでは同時に行うケースで解説します。
条件2-3で解説した「雇用保険の被保険者期間が5年以上」という条件を満たしていれば受給資格が得られます。この時に60歳到達時の賃金月額も決定・登録されます(賃金月額は給付金の支給の可否を決定する際の基準になります)。
受給資格は給付を受けるための前提条件であり、それだけで給付金が支給されるわけではありません。受給資格を得た上で、更に1ヶ月の賃金が過去の賃金月額の75%未満である月に支給を受けることができます。
※先に受給資格の決定の手続きのみ行う場合は、受給資格確認票と賃金証明書を提出します。
必要書類の提出は原則として事業主(会社)が行いますが、やむを得ない理由により会社を経由して提出することが困難な場合や、本人が自ら申請手続きを行うことを希望する場合は、本人が提出することも可能です。
初回の支給申請時は、支給を受けようとする月の初日から4ヶ月以内に、事業所の所在地を管轄する最寄りの公共職業安定所(ハローワーク)へ提出します。
2回目以降は原則として2ヶ月に一度ハローワークが指定する支給申請月の支給申請日に提出します。
支給申請日はハローワークから交付される「高年齢雇用継続給付次回支給申請日指定通知書」に記載されています。
申請手続きが完了した後はハローワークで「受給資格」と「初回給付」を決定する審査が行われます。
受給資格が決定すれば「受給資格確認通知書」が事業主宛に届きます。否認された場合は「受給資格否認通知書」が届きます。
同時に給付金の支給の可否と支給額が記載された「支給決定通知書」、および、2回目の支給申請の際に使用する支給申請書も届きます。
支給が決定したら、支給決定から概ね1週間で指定した金融機関の口座に給付金が振り込まれます。