雇用保険の雇用継続給付 3.「育児休業給付」 |
雇用保険には、労働者が新たに雇用されたり、今後も継続して働き続けられるよう支援する雇用促進給付があります。
その一つが、育児休業中の者に対して給付金を支給する「育児休業給付」です。乳幼児を養育するために育児休業を取得した者が、一定の要件を満たした場合に支給されます。
ここでは、支給を受けるための条件、支給される金額と期間、受給までの流れ・必要な手続きなどについて解説します。
<目 次>
育児休業給付の支給を受けるには、以下の要件を全て満たす必要があります。
それぞれの要件について詳しく解説します。
まず、原則として現在雇用保険に加入しており、更に雇用保険の「一般被保険者」でなくてはなりません。
雇用保険の一般被保険者に該当するのは雇用期間の定めのない65歳未満の一般社員や、雇用期間と労働時間が一定水準を超える派遣社員やパートなどの非正規労働者です。
この雇用保険に関する要件を満たさない例としては、「育児休業中は一時的な失業扱いとされて雇用保険も未加入となる」、「契約期間や勤務時間が短い非正規雇用者であるため雇用保険に加入していない」、「65歳以上であったり、日雇い労働者であるなど、一般被保険者以外の被保険者である」などのケースです。
また、育児休業後に退職することが決まっている場合は支給は受けられません。
特に非正規雇用者など雇用契約期間が定められている人の場合、休業を開始する時点で同じ事業主に1年以上雇用されていて、かつ、休業後に子どもが2歳になる日以降も引き続き雇用される見込みである必要があります。この期限内に雇用契約が満了し、更新されないことが確実である場合は支給は受けられません。
原則として1歳未満の乳幼児を養育するための育児休業が対象です。しかし以下の例外があります。
これは父母がともに育児休業を取得する場合に、子が1歳2ヶ月になるまで育児休業を続けられる制度です(通常は1歳までです)。この制度を利用している場合は1歳2ヶ月未満が基準となります。
特定のやむを得ない事情がある場合に限り、子が1歳になった後に育児休業を取得することができます(後述)。こうしたケースでは1歳6ヶ月未満が基準となります。また、育児休業給付金の支給対象期間も1歳6ヶ月時点まで延長されます。
要件の一つとして、「休業開始日前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上の月が12か月以上あること」とされています。
支払基礎日数とは賃金支払の対象となる日数のことです。完全月給制の人なら働いていない休日や祝日も含まれるため毎月30〜31日になり、日給制の人などは実際に仕事をして日給をもらった日数になります。詳細はこちらを参照してください。
よって、月給制の人なら要件を満たさないケースはほとんどなく、それ以外の給与形態の人でも「賃金をもらって働いた日数が11日以上ある月」が12ヶ月以上あれば要件を満たすことになります。
2年の間に失業するなどして基本手当の受給資格の決定(※実際の受給ではありません)を受けた事がある場合は、それ以後の期間だけが対象となります。
また、2年の間にケガや病気等によって30日以上続けて賃金が支払われなかった期間があった場合、対象期間は「2年+支払いのなかった期間」に延長されます(最大4年)。
育児休業中であっても、会社から有給や休業手当が支給されたり、月に何日かは仕事をするなどして、会社から何らかの賃金を受け取るケースは多いです。
育児休業中の月々の賃金が、休業前の賃金の80%未満でなくてはなりません。つまり休業中も休業前と同じくらいの賃金をもらっている場合は給付は受けられません。
※ここでいう「賃金」とは税金や雇用保険料などが控除される前の総支給額です。各種手当も含まれますが、賞与や退職金などの一時金は含まれません(賃金一覧表)。社会保険の計算における「報酬」とは賞与の定義などに若干の違いがあります。
※休業前の賃金とは休業直前の月給ではなく、休業直前6ヶ月間の平均賃金です(賃金月額)。賃金月額の計算の仕方は「支給額」の項目で解説しています。
育児休業中に仕事をした日数が、月々10日以下でなくてはなりません。11日以上の場合は仕事をした時間が80時間以下であれば要件を満たします。
育児休業給付を受けられる期間のことを「支給対象期間」といいます。
支給対象期間は原則として子どもが1歳になる日までです。しかし、以下の2つのケースでは対象期間がやや長くなります。
これは父母がともに育児休業を取得する場合に、子どもが1歳2ヶ月になるまで育児休業を続けられる制度です。
この制度を利用している場合は、子どもが1歳2ヶ月に達する日の前日までの間に最大1年まで支給が受けられます。1歳2ヶ月になる前に育児休業を終了した場合は終了日の前日が期限となります。
やむを得ない理由によって、子どもが1歳になった後に育児休業を取得した場合は、1歳6ヶ月になる日の前日まで支給対象期間が延長されます(※延長するには所定の手続きを行う必要があります)。
1歳を過ぎてからでも育児休業を取得できるのは以下のいずれかの事情に該当する場合です。
1ヶ月あたりの支給金額は以下の計算式によって算出されます。
休業開始時の賃金日額とは、休業開始日直前6ヶ月間の賃金合計を180で割った金額です。つまり6ヶ月間の平均日給です。
さらに賃金日額に30をかけた金額を賃金月額といいます。6ヶ月間の平均月給といえます。
※ここでいう「賃金」とは税金や雇用保険料などが控除される前の総支給額です。各種手当も含まれますが、賞与や退職金などの一時金は含まれません(賃金一覧表)。社会保険の計算における「報酬」とは賞与の定義などに若干の違いがあります。
※<賃金月額の上限と下限>
計算した賃金月額が454,200円以上だった場合、賃金月額は一律454,200円となります(上限)。
反対に計算した金額が75,000円未満だった場合、賃金月額は一律75,000円となります(下限)。
1ヶ月ごとに支給額を計算するため、支給日数は原則として「30日」です。最後の月だけは支給期間の残日数が支給日数となります。
<支給日数の例>支給期間が315日の場合
以上のことから、月々の支給額は休業前の平均賃金の50〜67%程度の金額になります。
※最終月だけは少なめになります。
まず、支給額には限度があります。
支給率が67%となる育児休業開始から6ヶ月間の上限額は304,314円で、支給率が50%となる6ヶ月目以降は227,100円です(令和2年7月末まで)。上限額は毎年8月1日に改定されます。
また、1ヶ月の支給額と、同じ月の賃金との合計が、「賃金日額 × 支給日数 × 80%」の金額よりも大きい場合、その超過分の金額が支給額から差し引かれます。賃金だけで「賃金日額 × 支給日数 × 80%」の金額を超える場合は支給額がゼロになります。
給付金の支給を受けるためには、はじめに受給資格を確認する手続きを行い、資格を得た後に給付の支給申請の手続きをするという流れになります。
この2つの手続きは同時に行うことができるため、ここでは同時に行うケースで解説します。
事業主は、雇用している被保険者が1歳未満(例外あり)の子を養育するための休業を開始したときに、受給資格の確認の手続きを行わなければなりません(その後、給付の支給申請も行います)。
書類の提出等の手続きは原則として事業主(会社)が行いますが、やむを得ない理由により会社を経由して提出することが困難な場合や、本人が自ら申請手続きを行うことを希望する場合は、本人が提出することも可能です。
※場合によっては育児休業申出書、雇用実績及び休業終了後の雇用継続見込みを確認する書類などが必要となる場合もあります。
※パパ・ママ育休プラス制度として申請する場合は、上記書類の他に、「世帯全員について記載された住民票の写しなど支給対象者の配偶者であることを確認できる書類」と、「配偶者が育児休業を取得していると確認できる書類(配偶者の雇用保険被保険者番号がわかる場合は省略可)」が必要です。
1〜7の書類を提出するのは、初回に「受給資格の確認」と「給付の支給申請」の手続きを同時にする場合のみです。
無事に受給資格が得られれば、以降は給付の支給申請のみを行います。2回目以降の支給申請時に提出する書類は「1、4、5」の3種類のみになります。
支給対象期間の初日から4ヶ月後の月の末日までに、事業所の所在地を管轄する最寄りの公共職業安定所(ハローワーク)へ提出します。
支給が決定した育児休業給付金は、支給決定から約1週間後に、指定した本人名義の金融機関の口座に振り込まれます。
支給対象期間の延長を希望する場合は、子どもの1歳の誕生日の前々日を含む期間の支給申請時、またはその一つ前の支給申請時に、「育児休業給付金支給申請書」の延期に関する項目を記入し、更に延期するに至った理由を証明する資料も添付して提出する必要があります。