事業主(会社)が行う雇用保険料の計算・申告・納付 |
事業主(会社)は毎月、雇用保険料を計算し、従業員負担分を毎月の給与から控除します。また、控除分と会社負担分を合わせた雇用保険料の全額を、労災保険料と一緒にまとめて「労働保険料」として年に1度、申告・納付します。それぞれの内容・やり方などについて解説します。
<目 次>
社会保険料は原則として1年間保険料が変わらないのに対し、雇用保険料は「毎月の給与総額」に「雇用保険料率」を掛けて算出するため、毎月の手当の変動などで給与額が変動すると雇用保険料も変わります。よって雇用保険料は毎月計算する必要があります。
雇用保険料の計算の元となる毎月の給与とは、税金や社会保険料などを控除する前の賃金の総額で、各種手当も含みますが役員報酬や一時金の類は含まれません。
雇用保険料率は原則として毎月4月1日に改定が行われます。雇用保険受給者の人数や積立金の状況によって厚生労働大臣が決めるため、変更のある年とない年があります。
平成29~令和3年度の料率は、変更がなかったため全て同率です。
雇用保険料率 | 事業主(会社)負担 | 労働者(被保険者)負担分 | |
---|---|---|---|
一般の事業 | 0.9% | 0.6% | 0.3% |
農林水産・清酒製造業 | 1.1% | 0.7% | 0.4% |
建設業 | 1.2% | 0.8% | 0.4% |
【参考】
上記一覧表からも分かるとおり、雇用保険料は会社と社員(被保険者)とで分けて負担します。被保険者負担分は以下の計算式によって毎月計算し、毎月の給与総額から控除します。
賞与と、賞与を支給した月の給与の合計金額に雇用保険料率を掛けて算出するのではなく、給与とは別個に賞与に対する雇用保険料を計算します。
計算方法は毎月の給与の場合と基本的に同じです。賞与の支給総額に雇用保険料率を掛けて算出します。
保険年度(4月1日〜翌年3月31日)の初日において64歳以上の雇用保険被保険者については、会社負担分・被保険者負担分ともに保険料が免除されます。
ただし、短期雇用特例被保険者や日雇労働被保険者は免除の対象外となります。
※雇用保険制度の変更によって、平成32年度以降は64歳以上の労働者に対しても雇用保険料を徴収することが決まっています。
雇用保険料と労災保険料を合わせて労働保険料といいます。
雇用保険料は、労災保険料といっしょに「労働保険料」として、原則として年に1度、まとめて申告・納付します。
※ごく一部の事業(二元適用事業)では、雇用保険料と労災保険料を別々に納付します。
<1.確定保険料を計算する>
労働保険料の保険年度は、4月1日〜翌年3月31日までです。
4月に入って年度が変わったら、前年度に全従業員に支払った賃金総額に保険料率を掛けて保険料を算出します。これを確定保険料といいます。
具体的には、賃金総額に雇用保険料率を掛けて算出する「雇用保険料」と、労災保険料率を掛けて算出する「労災保険料」を足して、労働保険料を算出します。具体的な計算方法は後述します。
<2.概算保険料を計算する>
申告が必要なのは前年度の確定保険料だけではありません。当年度に支払うと見込まれている保険料を、確定保険料を基にして概算で計算し、前もって申告・納付します。この保険料を概算保険料といいます。
<3.差額を精算する>
更に、前年度に前もって納付した概算保険料と、今年度に実際に納付する確定保険料とでは金額が異なり、差額が生じるはずなので、その精算も行います。
前年度に納めた概算保険料が確定保険料よりも少なかった場合は、不足分を本年度に申告・納付する概算保険料に加算します。逆に前年度の概算保険料で納めすぎた場合は、超過分を本年度に申告・納付する概算保険料から減算します。
1〜3の作業を毎年繰り返すことになります。これを労働保険料の年度更新といいます。
例えばH28年6月にH28年度の年度更新をする際には、以下の3つの作業を順番に行うことになります。
労働保険料の申告は、毎年6月1日〜7月10日の間に行います。
新年度(4月)に入ったら、早めに年度更新の準備に取りかかったほうが良いでしょう。
労働保険料の申告で行うことは、労働保険料申告書の提出です。
申告書を作成するためには、雇用保険・労災保険それぞれの対象者に対して、前年度1年間に支払った賃金総額を把握しておかなければなりません。
そのために、毎月の支払賃金総額等をまとめた「確定保険料(および一般拠出金)算定基礎賃金集計表」をあらかじめ作成しておきましょう。
※集計表は申告後の控えと一緒に保管しておくと良いでしょう。
※集計表は提出する書類ではないので、書式は決まっていません。
集計表の作成にあたっては、労働保険料の対象となる「賃金」の範囲を把握しておきましょう。
なお、4月1日〜翌年3月31日に支払いが確定した賃金が対象です。実際の支払日がこの算定期間外であっも問題ありません。
また、保険の対象となる従業員の範囲も確認しておきましょう。
労災保険は原則として全従業員が被保険者となりますが、雇用保険は契約期間や勤務時間の短い非正規雇用者は被保険者とならないほか、64歳以上の者(免除対象校年齢労働者)は雇用保険料が免除されるため、こうした人達の賃金分を差し引いた賃金総額を出しておきましょう。
集計表を作成したら、それをもとに申告・納付する保険料を「労働保険概算・確定保険料申告書」に記入します。
申告書は労働局から送付されます。労働基準監督署にも用意してあります。電子申請も可能です。
申告書は以下の流れで作成します。
①
まず、集計表で算出した前年度の賃金総額をもとに、雇用保険料、労災保険料、一般拠出金を算出します。
※「一般拠出金」とは?
石綿(アスベスト)健康被害救済基金への拠出金のことで、労災保険の適用事業所は必ず納付しなければなりません。労働保険料と合わせて納付します。
②
前年度の確定保険料を算出したら、次に前年度の概算保険料との差額を精算します。
採用、退職に伴う従業員の変動などによって概算保険料と確定保険料には通常、差額が出ます。確定保険料のほうが多い場合は不足額とし、少ない場合は充当額とします。
③
次に本年度の概算保険料を求めます。
厳密には本年度の賃金総額の見込額に保険料を乗じて算出しますが、実際は前年度の確定保険料をそのまま流用してかまいません。ただし、見込額が前年度の2倍以上、または半分未満になることがわかっている場合には、実際の見込額から保険料を算出します。
④
次に②において不足額が出ていれば③の概算保険料に加算し、充当額が出ていれば概算保険料から差し引きます。
⑤
こうして納付する労働保険料を求めたら、本年度の一般拠出金を加算します。これが本年度に納める総額になります。
申告書作成後、労働保険料と一般拠出金を申告・納付します。
申告書に付いている領収済通知書(納付書)を使って、6月1日〜7月10日(10日が休日なら翌営業日)までに納付します。
一括納付が原則ですが、以下のいずれかに該当する場合は3回に分けて分割納付できます。
納期限は、1期目が7月10日、2期目が10月31日、3期目が1月31日です。端数が出た場合は1期目にまとめて納付します。
※申告書は金額を間違えても訂正できますが、領収済通知書は金額の訂正ができないため注意しましょう。